たし好みの新刊   201505

『人とミルクの1万年』(岩波ジュニア新書) 平田昌弘著   岩波書店

 わたしたちの身の回りにはたくさんの乳製品があふれている。これらの乳製品は

いつごろから,どこで,どのようにして人間の口に入るようになったのだろうか。こ

の大きな問題を実証的にくわしく論じているのが本書である。少々難解な部分もな

くはないが,人類史をひもとく壮大な研究に次代を背負う子どもたちも読んでほし

い一冊である。

 多くの乳製品の元は哺乳動物のミルクである。哺乳動物が我が子を育てるため

に出しているミルクを人間が《横取り》することから人間の乳利用が始まる。今か

8000年も前から搾乳と乳利用が始まったという。しかも,ミルクの搾乳が始まっ

たのは西アジア,北アジアの乾燥地帯である。ここで人々は動物の乳を利用するこ

とによって生活の基盤をはぐくんできた。すでに4000年前の遺跡からヒトがウシか

ら搾乳している絵が出土している。しかし,搾乳してそのままの生乳ではすぐに腐

敗が始まる。年中乳製品として食するには一工夫がいる。バターやチーズなどにし

て保存する技術が生まれてきた。その加工技術も紀元前6000年には生まれていた

と言うから驚きだ。西アジアの乾燥地帯では今も乳酸発酵などの技術をつかって

ヨーグルト,バターなどに加工して食べている。これら乳製品の利用は乾燥地帯

だけに限らず,インドなど高温多湿地域でもヨーグルトの利用などなされている。

私たち日本人はもともとミルクに依存していない生活だった。しかし今は,1940

年頃になってヨーロッパで生まれた《熟成チーズ》など多種多様な乳製品に囲

まれている。これらのおいしい乳製品は食の西洋化と共に我が国でも広がった。

わたしたち日本人も,長い歴史と世界の人々の知恵にはぐくまれて豊かな食生

活に恵まれていることが分かる。バター,チーズ党には見逃せない一冊である。

                        2014,11刊  880

 

『巨大隕石から地球を守れ』  高橋典嗣著   少年写真新聞社

 昨年の2月にロシアのチェリャビンスクに大きな隕石が突然落ちてきて人々を驚か

せた。約6500万年前には巨大隕石が地球に衝突して恐竜も絶滅するほど地球環境

に異変が起きた。これからもある日突然,宇宙の彼方から大きな隕石が落ちてこな

いとも限らない。わたしたち地球人はそのような隕石の落下を防ぐことができるのだ

ろうか。また,そもそも隕石とは何なのだろうか。この本は,そのような疑問にわか

りやすく答えてくれている。

まず初めは「隕石ってなんだろう」から話は始まる。じつは宇宙にはいろんな小

天体が浮かんでいて,それらの多くは火星と木星の間にある小惑星帯から猛スピ

ードで地球にもやってくる。過去には何10トンもある隕石も地球に落ちてきた形跡

がある。そう言えばあの月のえくぼも隕石衝突の跡とか。宇宙は隕石の大海原だ。

おまけに彗星もたまにやってくる。しかし,隕石は「怖いもの」「やっかいもの」

と毛嫌いばかりするものでもないらしい。隕石には太陽系のなぞがかくされていて

宇宙生成の謎を解く貴重な情報源ともなっている。もともと地球は灼熱マグマの固

まりだった。水分はほとんどなくなっていたはずだが,その後の隕石が多量の水

と生命の元となる物質も取り込まれたのではと考えられている(彗星に起源を求め

ている学者もいる)。なにはともあれ,われわれ命の元は隕石にありとなるとまた

隕石にも親しみが増す。「もしも,6500万年前に巨大隕石が地球に衝突していな

ければ…」,高い知能を持った恐竜が地上を闊歩しているかもと空想がふくらむ。

心配なのは今後の隕石衝突をどのようにして回避するかである。この方面の研究

の一端も紹介されている。隕石衝突が気になって眠れない方もぜひこの本を。 

 2014,12刊 1,600

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